コラム Nの特徴付け
さて、\( \mathbb{N} \)を特徴付けるための準備として、順序数をその形に応じて2種類に分類します。
定義1(後続順序数の定義) |
順序数\( n \)が後続順序数(successor ordinal number)であるとは、ある順序数\( m \)が存在して\( n = m \cup \{ m \} \)を満たすということである。また、\( n \)が極限順序数(limit ordinal number)であるとは、\( n \)が後続順序数でないということである*1。 |
例えば\( 0{} \)は極限順序数ですが、\( 1 \)、\( 2 \)、\( 3 \)、\( 4 \)、\( 5 \)、\( 6 \)、\( 7 \)、\( 8 \)、\( 9 \)、はいずれも後続順序数です。順序数が後続順序数か否かは、次の方法で特徴付けることが出来ます。
演習2(後続順序数の特徴付け) |
\( n \)を順序数とする。\( \bigcup_{m \in n} m \)を\( n' \)と置く。 |
(1) \( n \)が後続順序数であることと\( n = n' \cup \{ n' \} \)であることは同値である。 |
(2) \( n \)が極限順序数であることと\( n = n' \)であることは同値である。 |
\( 0{} \)でない極限順序数全体のなすクラスの共通部分を\( \omega \)と置きます。
定理3(\( \mathbb{N} \)が最小の非空極限順序数であること) |
\( \mathbb{N} \)は\( 0{} \)でない極限順序数であり、かつ\( \mathbb{N} = \omega \)である。 |
\( \mathbb{N} \)が最小の非空極限順序数であることを示すために、次の補題を準備します。
補題4(極限順序数が後続で閉じること) |
任意の極限順序数\( n \)と任意の\( m \in n \)に対し、\( m \cup \{ m \} \in n \)である。 |
証明
\( m \in n \)とする。[[\( \textrem{Ord} \)の推移性]]より、\( m \)は順序数である。順序数の後続が順序数であることから、\( m \cup \{ m \} \)は順序数である。\( n \)に対する強整列性の条件(1)から、\( m \subset n \)である。\( m \in n \)かつ\( m \subset n \)より、\( m \cup \{ m \} \subset n \)である。\( n \)は極限順序数であるので、\( m \cup \{ m \} \neq n \)である。従って\( m \cup \{ m \} \subsetneq n \)である。[[\( \textrm{Ord} \)において\( \in \)と\( \subsetneq \)が同値であること]]から、\( m \cup \{ m \} \in n \)である。
\( 0 \in \mathbb{N} \)より、\( \mathbb{N} \neq \emptyset = 0 \)である。\( \mathbb{N} \)が順序数であることを示す。\( \mathbb{N} \subset \textrm{Ord} \)であるので、[[\( \textrm{Ord} \)の強整列性]]から、\( \mathbb{N} \)は強整列性の条件(2)~(5)を満たす。従って\( \mathbb{N} \)が強整列性の条件(1)を満たすことを示せば良い。
変項\( X \)を含む論理式\( X \subset \mathbb{N} \)を\( \Phi(X) \)と置くと、\( \Phi(X) \)は量化の有界な論理式である。空クラスが任意のクラスに含まれることから、\( 0 \subset \mathbb{N} \)でありすなわち\( \Phi(0) \)が成り立つ。\( n \in \mathbb{N} \)が\( \Phi(n) \)を満たすとすると、\( n \in \mathbb{N} \)かつ\( \Phi(n) \)すなわち\( n \subset \mathbb{N} \)より、\( n \cup \{ n \} \subset \mathbb{N} \)すなわち\( \Phi(n \cup \{ n \}) \)が成り立つ。従って、数学的帰納法から、任意の\( n \in ^mathbb{N} \)に対し\( \Phi(n) \)が成り立つ。以上より、\( \mathbb{N} \)は順序数である。
\( \mathbb{N} \)が極限順序数であることを背理法で示す。ある順序数\( n \)が存在して\( \mathbb{N} = n \cup \{ n \} \)であると仮定する。\( n \in \mathbb{N} \)であるので、\( \mathbb{N} \)の定義から\( n \cup \{ n \} \in \mathbb{N} = n \cup \{ n \} \)である。これは順序数の正則性に反し、矛盾する。以上より、\( \mathbb{N} \)は極限順序数である。
\( \mathbb{N} \)が\( 0{} \)でない極限順序数であることから、\( \omega \)の定義より、\( \omega \subset \mathbb{N} \)である。\( \mathbb{N} \subset \omega \)を示す。そのために、任意の\( 0{} \)でない極限順序数\( n \)が\( \mathbb{N} \subset n \)を満たすことを示す。\( n \neq 0 \)より、\( 0 = \emptyset \subsetneq n \)である。[[\( \textrm{Ord} \)において\( \in \)と\( \subsetneq \)が同値であること]]から、\( 0 \in n \)である。任意の\( m \in n \)に対し、極限順序数が後続で閉じることから、\( m \cup \{ m \} \in n \)である。従って、\( \mathbb{N} \)の定義から\( \mathbb{N} \subset n \)である。以上より、\( \mathbb{N} \subset \omega \)であり、\( \mathbb{N} = \omega \)である。
\( \mathbb{N} \)が最小の非空極限順序数であることにより、自然数を順序数の中で特徴付けることが出来ます。
系5(自然数の順序数としての特徴付け) |
\( n \)を集合とする。以下は同値である: |
(1) \( n \)は自然数である。 |
(2) 任意の\( m \in n \cup \{ n \} \)に対し、\( m \)は\( 0{} \)または後続順序数である。 |
証明
(1)ならば(2)を示す。\( m \in n \cup \{ n \} \)とする。\( \mathbb{n} \)の定義から、\( n \cup \{ n \} \in \mathbb{N} \)である。\( \mathbb{N} \)が最小の非空極限順序数であることと\( \mathbb{N} \)に対する強整列性の条件(1)から、\( m \in \mathbb{N} \)である。\( m \)が\( 0{} \)または後続順序数であることを背理法で示す。\( m \)が\( 0{} \)でない極限順序数とする。\( \mathbb{N} \)が最小の非空極限順序数であることから、\( \mathbb{N} \subset m \)である。\( m \in \mathbb{N} \)より、\( m \in m \)である。これは順序数の正則性に反し、矛盾する。従って、\( m \)が\( 0{} \)または後続順序数である。
(2)ならば(1)を示す。\( n \in n \cup \{ n \} \)より、\( n \)は\( 0{} \)または後続順序数であり、特に順序数である。順序数の後続が順序数であることから、\( n \cup \{ n \} \)は順序数である。\( \mathbb{N} \)が非空極限順序数であることから、\( \mathbb{N} \)は\( 0{} \)でも後続順序数でもない。従って、\( \mathbb{N} \notin n \cup \{ n \} \)かつ\( \mathbb{N} \neq n \cup \{ n \} \)である。三分律より、\( n \cup \{ n \} \in \mathbb{N} \)である。\( \mathbb{N} \)が順序数であることにより\( \mathbb{N} \)に対する強整列性の条件(1)が保証されるので、\( n \in n \cup \{ n \} \in \mathbb{N} \)より\( n \in \mathbb{N} \)である。
以上によって、共通部分を用いて抽象的に定義した\( \mathbb{N} \)の元である自然数という概念を、後続順序数を用いて具体的に特徴付けることが出来ました。
最後に、自然数の良い特徴の1つであった数学的帰納法を拡張する形で、順序数に対する帰納法である「超限帰納法」というものを紹介します。