付値

Last-modified: Sat, 17 Jun 2017 19:32:41 JST (1631d)
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\( R \)を環とします。ここでは\( R \)上の「付値」という概念について扱います。

定義1(付値の定義)
\( R \)上の付値(valuation)とは、全順序可換群\( ( (G,\bullet), \leq) \)と写像\( \rho \colon R \to G \sqcup \{ 0 \}, \ f \mapsto \rho(f) \)の組\( x = ( ( (G,\bullet),\leq), \rho) \)であって、以下を満たすものである*1
(1) 任意の\( (f_i)_{i \in 2} \in R^2 \)に対し、\( \rho(f_0 - f_1) \leq \max \{ \rho(f_0), \rho(f_1) \} \)である。
(2) \( \rho(0_R) = 0 \)である。
(3) 任意の\( (f_i)_{i \in 2} \in R^2 \)に対し、\( \rho(f_0 f_1) = \rho(f_0) \cdot \rho(f_1) \)である。
(4) \( \rho(1_R) = 1_G \)である。

ただし\( G \)上の演算\( \bullet \)\( G \sqcup \{ 0 \} \)上へ\( 0{} \)を吸収元として延ばして得られる演算も\( \bullet \)と書き、\( G \)上の全順序\( \leq \)\( G \sqcup \{ 0 \} \)上へ\( 0{} \)を最小元として延ばした全順序も\( \leq \)と書き、またその\( \leq \)に対する\( \max \)関数\( (G \sqcup \{ 0 \})^2 \to G \sqcup \{ 0 \} \)のことを\( \max \)と書いています。また\( ( (G,\bullet),\leq) \)に紛れがない限り付値\( ( ( (G,\bullet),\leq), \rho) \)を単に\( (G, \rho) \)\( \rho \)と略記し、\( \rho \)自体を付値と呼ぶことも多いです。

\( R \)上の付値\( x = ( ( (G, \bullet),\leq), \rho) \)1つしか扱わない場合、しばしば写像\( \rho \)が絶対値記号\( \lvert {-} \rvert \)で書かれ、その場合は\( f \in R \)に対して\( \rho(f) \)\( \lvert f \rvert \)と表記します。また、\( R \)上の付値\( x = ( ( (G, \bullet),\leq), \rho) \)以外にも考えうる場合、しばしば\( f \in R \)に対して\( \rho(f) \)\( \lvert f(x) \rvert \)と表記します。この記法は\( \rho \)の記号を用意する必要がない点で使いやすいものである上に、環はその上の付値全体のクラスの上の関数全体のようなものであるという幾何学主体の再双対的イメージに基づいており、慣れてしまえば直感的に分かりやすいものであると思います。実際、後に定義する「付値の同値類」という概念はいくつもの幾何学的対象を与え、Encyclopedia of \( P \)-adic Numbersでは扱いませんが「リジッド幾何学」という整数論の特別な分野で活用されています。そういった再双対的な意味で「\( x \)を零点に持つ関数」の全体、つまり\( \{ f \in R \mid \lvert f(x) \rvert = 0 \} \)\( x \)核(kernel)と呼び、\( \ker x \)と表記します。

それでは付値の例を見てみましょう。

例2(付値の例)
(1) 群\( \mathbb{Q}_p^{\times}/\mathbb{Z}_p^{\times} \cong \mathbb{Z} \)に標準的な順序を入れたものは全順序可換群であり、\( p \)付値\( \mathbb{Q}_p \twoheadrightarrow (\mathbb{Q}_p^{\times}/\mathbb{Z}_p^{\times}) \sqcup \{ 0 \} \)\( \mathbb{Q}_p \)上の付値をなす。
(2) \( R \)を整域とする。この時自明群\( \{ 1 \} \)に唯一の全順序を与えたものは全順序可換群であり、\( R \setminus \{ 0_R \} \)の元を\( 1 \)に送り\( 0_R \)をに送る写像\( R \to \{ 1 \} \sqcup \{ 0 \} \)\( R \)上の付値をなし、その核は\( \{ 0_R \} \)と一致する。この付値\( R \)自明付値(trivial valuation)と呼ぶ。
(3) \( A \)を環とし、\( x = (G,\rho) \)\( A \)上の付値とする。この時、任意の環準同型\( \varphi \colon R \to A \)に対し、\( \varphi^* x := (G, \rho \circ \varphi) \)\( R \)上の付値をなし、その核は\( \varphi^{-1}(\ker x) \)と一致する。この付値\( \varphi \)による\( x \)引き戻し(pull-back)と呼ぶ。

さて、付値の性質を見ていきましょう。

命題3(付値の核が素イデアルであること)
\( R \)上の任意の付値\( x \)に対し、\( \ker x \)\( R \)の素イデアルである。

証明

\( \lvert 0_R(x) \rvert = 0 \)より、\( 0_R \in \ker x \)である。

任意の\( (f_i)_{i \in 2} \in (\ker x)^2 \)に対し、\( \lvert (f_0 - f_1)(x) \rvert \leq \max \{ \lvert f_0(x) \rvert, \lvert f_1(x) \rvert \} = \max \{ 0, 0 \} = 0 \)より\( \lvert (f_0 - f_1)(x) \rvert = 0 \)となり、すなわち\( f_0 - f_1 \in \ker x \)である。

任意の\( (f_0,f_1) \in R \times \ker x \)に対し、\( \lvert (f_0 f_1)(x) \rvert = \lvert f_0(x) \rvert \cdot \lvert f_1(x) \rvert = \lvert f_0(x) \rvert \cdot 0 = 0 \)より\( f_0 f_1 \in \ker x \)である。

任意の\( (f_i)_{i \in 2} \in (R \setminus \ker x)^2 \)に対し、\( \lvert f_0(x) \lvert \in G \)かつ\( \lvert f_1(x) \rvert \in G \)より\( \lvert (f_0 f_1)(x) \rvert = \lvert f_0(x) \rvert \cdot \lvert f_1(x) \rvert \in G \)となり、すなわち\( f_0 f_1 \in R \setminus \ker x \)である。以上より、\( \ker x \)\( R \)の素イデアルである。

付値の核が素イデアルであることから様々な系を得ることが出来ます。

系4(体の付値の核が自明であること)
\( R \)が体であるならば、\( R \)上の任意の付値\( x \)に対し、\( \ker x = \{ 0_R \} \)となる。

証明

\( x = (G, \lvert {-} \rvert) \)と置く。\( \lvert 1_R \rvert = 1_G \)より\( 1_R \notin \ker x \)である。体のイデアルが自明であることと付値の核がイデアルであることから、\( \ker x = \{ 0_R \} \)である。

系5(付値の核として全ての素イデアルが得られること)
\( R \)上の付値の核全体は\( R \)の素イデアル全体と等しい。

証明

付値の核が素イデアルであることから、任意の素イデアル\( \wp \subset R \)\( R \)上のある付値の核で与えられることを示せば良い。

自明群\( \{ 1 \} \)に唯一の全順序を与えたものは全順序可換群であり、\( R \setminus \wp \)の元を\( 1 \)に送り\( \wp \)の元をに送る写像\( \lvert {-} \rvert_{\wp} \colon R \to \{ 1 \} \sqcup \{ 0 \} \)\( R \)上の付値をなし、その核は\( \wp \)と一致する。実際、\( R/\wp \)は整域であり付値の例(3)より\( R/\wp \)上の自明付値は核が\( 0_{R/\wp} \)となり、付値の例(2)より\( R/\wp \)の自明付値を標準全射\( R \twoheadrightarrow R/\wp \)で引き戻して得られる付値\( (\{ 1 \}, \lvert {-} \rvert_{\wp}) \)に一致する。

系6(零環でない環に付値が存在すること)
選択公理の下で、以下は同値である:
(1) \( R \)上の付値が存在する。
(2) \( R \)は零環でない。

証明

選択公理の下で零環でない環が素イデアルを持つことと付値の核として全ての素イデアルが得られることから、示すべき主張が従う。

\( R \)上の付値\( x = (G, \lvert {-} \rvert) \)に対し、\( R \setminus \ker x \)の像\( \{ \lvert f \rvert \mid f \in R \} \setminus \{ 0 \} \subset G \)が生成する部分群を\( x \)の値群(value group)と呼び、\( \Gamma_x \)と書きます。\( \Gamma_x \)\( G \)の順序を制限して与えることで全順序可換群をなします。値群を用いることで、付値同士の同値関係を定義することが出来ます。

定義7(付値の同値性の定義)
\( R \)上の付値\( x_0 \)\( x_1 \)同値(equivalent)であるとは、ある単調群同型\( \iota \colon \Gamma_{x_0} \to \Gamma_{x_1} \)が存在して任意の\( f \in R \)に対し\( \iota(\lvert f(x_0) \rvert) = \lvert f(x_1)\rvert \)となるということである。

付値の同値性は、各元の付値の大小関係を用いても再定義することが出来ます。

演習8(付値の同値性に関する演習)
\( R \)上の付値\( x_0 \)\( x_1 \)に対し、以下が同値であることを示せ:
(1) \( x_0 \)\( x_1 \)が同値である。
(2) 任意の\( (f_i)_{i \in 2} \in R^2 \)に対し、\( \lvert f_0(x_0) \rvert \leq \lvert f_1(x_0) \rvert \)\( \lvert f_0(x_1) \rvert \leq \lvert f_1(x_1) \rvert \)が同値である。

(2)による特徴付けを踏まえると、付値の同値性が同値関係をなすことが分かります。さて、容易に確認できることとして、\( R \)上の1つの付値と同値な付値全体は集合でないクラスをなします。このことから、\( R \)が零環でない限り\( R \)上の「付値の同値類の全体」に類するものを公理的集合論の中で記述することが出来ません。しかしながら、実は\( R \)上の付値の同値類の完全代表系を集合として具体的に与えることが出来るため、それを「付値の同値類全体」の代わりとして用いることが出来ます。

そのことを説明する準備として、次に「付値環」と「付値体」という概念を導入します。




*1 &mathjax{G};の演算に乗法的記法&mathjax{\bullet};を採用しているため、ここでの付値のことを乗法的付値(multiplicative valuation)と呼ぶ流儀もあります。その流儀においては&mathjax{G};の演算に加法的記法を採用したものを加法的付値(additive valuation)と呼びますが、ただ条件が加法的に書き換わるだけでなく、吸収元である最小元&mathjax{0{}};の代わりに吸収元である最大元&mathjax{\infty};を添加し、(1)の条件も不等式が逆転し&mathjax{\max};に代わりに&mathjax{\min};を用いる必要があるという点で大幅に異なるので注意しましょう。