写像の定義

Last-modified: Fri, 28 Apr 2017 10:45:01 JST (1681d)
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定義1(クラス関数の定義)
クラス関数(class function)とは、3つのクラス\( S \)\( T \)\( \Gamma \)の3つ組\( (S,T,\Gamma) \)であって、以下の条件を満たすものである。
(1) \( \Gamma \subset S \times T \)
(2) 任意の\( s \in S \)に対し、ただ1つの\( t \in T \)が存在し、\( (s,t) \in \Gamma \)が成り立つ。

上の定義における\( S \)定義域(sourceまたはdomain)\( T \)終域(targetまたはcodomain)\( \Gamma \)グラフ(graph)と呼びます。また与えられたクラス関数\( f = (S,T,\Gamma) \)に対し、ここでは\( f \)の定義域\( S \)\( \textrm{Dom}(f) \)、終域\( T \)\( \textrm{Cod}(f) \)、グラフ\( \Gamma \)\( \Gamma_f \)と表記することにします。\( (s,t) \in \Gamma_f \)なる\( s \in \textrm{Dom}(f) \)\( t \in \textrm{Cod}(f) \)に対し、クラス関数の定義から\( t \)\( f \)\( s \)によって一意に定まるため、\( t \)のことを\( f(s) \)\( f_s \)と表記し、「\( f \)\( s \)における値」や「\( f \)\( s \)を代入した値」と呼ぶことが慣例です。この表記において、クラス関数\( f \)のグラフとは、まさしく\( (s,f(s)) \)なる点の集まりのことであるということが分かります。2つのクラス\( S \)\( T \)が与えられている時、「クラス関数\( f \)であって定義域が\( S \)かつ終域が\( T \)であるもの」という文を「クラス関数\( f \colon S \to T \)」や「クラス関数\( f \colon S \to T, \ s \mapsto f(s) \)」等のように略記します。

さて、クラス関数の特別なものとして、「写像」という概念を導入します。

定義2(クラス関数が写像であることの定義)
クラス関数\( f \)写像(map)であるとは、\( \textrm{Dom}(f) \)\( \textrm{Cod}(f) \)\( \Gamma_f \)も集合であるということである*1\( f = (\textrm{Dom}(f),\textrm{Cod}(f),\Gamma_f) \)より、これは\( f \)が集合であることに他ならない。

それではクラス関数や写像の簡単な例を見てみましょう。

例3(クラス関数の例)
\( T \)をクラスとし、\( S \)をその部分クラスとする。
(1) 3つのクラス\( S \)\( T \)\( \{ (s,t) \in S \times T \mid t = s \} \)の3つ組はクラス関数をなし、\( S \)から\( T \)への包含写像(inclusion map)包含写像\( S \hookrightarrow T \)と呼ぶ。特に\( S = T \)である時、それを\( S \)の恒等写像(identity map)と呼ぶ。\( S \)から\( T \)への包含写像が写像をなす必要十分条件は、\( S \)\( T \)が共に集合であることである。
(2) 3つのクラス\( T \)\( 2 \)\( \{ (t,i) \in T \times 2 \mid ( (t \in S) \wedge (i = 1) ) \vee ( (t \notin S) \wedge (i = 0) ) \)の3つ組はクラス関数をなし、\( S \)\( T \)上の特性関数(characteristic function)と呼ぶ。

恒等写像の記法には慣例がありますが、それには注意が必要です。

注意4(恒等写像の慣例的記法に関する注意)
\( S \)をクラスとする。\( S \)の恒等写像を\( \textrm{id}_S \)と置くことが慣例であるが、逆に\( \textrm{id}_S \)と置かれている概念が必ずしも\( S \)の恒等写像を表すとは限らない。例えば後に定義するや環や位相空間のように、\( S \)が組や多重の組の構造を持っている場合、その成分のうち「下部構造」と呼ばれる重要な成分のことを同じ記号\( S \)で表記することがあり*2、その下部構造の恒等写像や、それに類するもの*3\( \textrm{id}_S \)と表記することがある。

クラス関数には「合成」と「制限」という概念が定義されます。合成を定義するために、「像」という概念を導入します。

定義5(クラス関数の像の定義)
クラス関数\( f \)に対し、\( \{t \in \textrm{Cod(f)} \mid \exists s \in \textrm{Dom}(f), t = f(s) \} \)\( \textrm{im}(f) \)と略記し、\( f \)の像(image*4と呼ぶ。

クラス関数の像は必ずしも集合をなしませんが、像の定義から、写像の像は集合をなすということが分かります。

定義6(クラス関数の合成の定義)
2つのクラス関数\( f \)\( g \)に対し、\( \textrm{im}(g) \subset \textrm{Dom}(f) \)である場合、\( f \circ g \)を以下の3つのクラスの3つ組として定義する。
(1) \( \textrm{Dom}(f \circ g) := \textrm{Dom}(g) \)
(2) \( \textrm{Cod}(f \circ g) := \textrm{Cod}(f) \)
(3) \( \Gamma_{f \circ g} := \{(s,t) \in \textrm{Dom}(g) \times \textrm{Cod}(f) \mid t = f(g(s)) \} \)

この3つ組は確かにクラス関数をなし*5\( f \circ g \)\( f \)\( g \)の合成(composite)と呼びます。

演習7(クラス関数の合成に関する演習)
(1) 任意のクラス関数\( f \)に対し、\( \textrm{id}_{\textrm{Cod}(f)} \circ f \)\( f \circ \textrm{id}_{\textrm{Dom}(f)} \)が定義され、それらが\( f \)と一致することを示せ。
(2) 任意の3つのクラス関数\( f \)\( g \)\( h \)に対し、\( (\textrm{Dom}(f),\textrm{Dom}(g)) = (\textrm{Cod}(g),\textrm{Cod}(h)) \)ならば\( (f \circ g) \circ h = f \circ (g \circ h) \)であることを示せ。

この合成の性質は、後に圏という概念を導入する際に重要なものとなります*6。さて、合成を用いて表される概念に、「逆写像」というものがあります。

定義8(全単射性と逆写像の定義
\( f \)をクラス関数とする。
(1) \( f \)単射(injective)であるとは、任意の\( s \in \textrm{Dom}(f) \)と任意の\( s' \in \textrm{Dom}(f) \)に対し、\( f(s) = f(s') \)ならば\( s = s' \)が成り立つということである。
(2) \( f \)全射(surjective)であるとは、任意の\( t \in \textrm{Cod}(f) \)に対し、ある\( s \in \textrm{Dom}(f) \)が存在して\( t = f(s) \)となるということである。これは\( \textrm{im}(f) = \textrm{Cod}(f) \)が成り立つという条件に他ならない。
(3) \( f \)全単射(bijective)であるとは、\( f \)が単射かつ全射であるということである。
(4) クラス関数\( g \)\( f \)の逆写像(inverse map)であるとは、\( f \circ g \)\( g \circ f \)が意味を持ち、かつ共に恒等写像となるということである。

与えられたクラス関数の逆写像の存在は、そのクラス関数の全単射性と同値であることが容易に確かめられます。

演習9(逆写像の存在性に関する演習)
\( f \)をクラス関数とする。以下が同値であることを示せ:
(1) \( f \)の逆写像が存在する。
(2) \( f \)の逆写像が一意に存在する。
(3) \( f \)が全単射である。

特に\( f \)の逆写像は一意であることが分かるので、存在するならばそれを\( f^{-1} \)と表記します。すると\( f \)\( f^{-1} \)の逆写像になる(つまり\( (f^{-1})^{-1} = f \)である)ことが容易に分かるので、逆写像の存在性に関する演習\( f^{-1} \)に対して用いることで、\( f^{-1} \)もまた全単射であることが分かります。

次に、合成と包含写像を用いて制限を定義します。

定義10(クラス関数の制限の定義)
\( f \)をクラス関数とする。
(1) \( \textrm{Dom}(f) \)の任意の部分クラス\( U \)に対し、\( f \)\( U \)\( \textrm{Dom}(f) \)への包含写像の合成を\( f |_U \)と表記し、\( f \)\( U \)への制限(restriction)と呼ぶ。\( \textrm{im}(f |_U) \)\( f \)による\( U \)の像(image)と呼び、\( f(U) \)\( f[U] \)*7のように略記する。
(2) \( \textrm{Cod}(f) \)の任意の部分クラス\( V \)に対し、\( V \)\( \textrm{Cod}(f) \)への包含写像との合成が\( f \)と一致するようなクラス関数が一意に存在する場合、それを\( f |^V \)と表記する。

制限と言った場合は基本的に(1)の意味(定義域の制限)ですが、(2)の意味(終域の制限)で制限ということもあるので気を付けましょう。包含写像と合成と終域の制限の定義から、終域の制限が意味を持つための必要十分条件を得ます。以下に演習問題として掲げておきます。

演習11(クラス関数の終域の制限に関する演習)
任意のクラス関数\( f \)\( \textrm{Cod}(f) \)の任意の部分クラス\( V \)に対し、以下が同値であることを示せ:
(1) あるクラス関数\( g \colon \textrm{Dom}(f) \to V \)が存在して、\( g \)\( V \)\( \textrm{Cod}(f) \)への包含写像との合成が\( f \)と一致する。
(2) クラス関数\( g \colon \textrm{Dom}(f) \to V \)が一意に存在して、\( g \)\( V \)\( \textrm{Cod}(f) \)への包含写像との合成が\( f \)と一致する。
(3) \( \textrm{im}(f) \subset V \)

さて、与えられた2つのクラス関数\( f \)\( g \)に対し、\( g \)\( f \)制限であるということを、\( \textrm{Dom}(g) \subset \textrm{Dom}(f) \)かつ\( \textrm{Cod}(g) \subset \textrm{Cod}(f) \)かつ\( g = (f |_{\textrm{Dom}(g)}) |^{\textrm{Cod}(g)} \)であるということとして定義します*8。制限というクラス関数としての関係性は、クラス関数であることを忘れてクラスとしての簡単な関係性で翻訳することが出来ます。

命題12(クラス関数の制限に関する特徴付け|組の定義に依存
2つの任意のクラス関数\( f \)\( g \)に対し、以下は同値である。
(1) \( g \)\( f \)の制限である。
(2) \( g \subset f \)

証明

(1)を仮定する。クラスの組と包含関係の関係性及び\( \textrm{Dom}(g) \subset \textrm{Dom}(f) \)かつ\( \textrm{Cod}(g) \subset \textrm{Cod}(f) \)より、\( (\textrm{Dom}(g), \textrm{Cod}(g)) \subset (\textrm{Dom}(f), \textrm{Cod}(f)) \)である。更に\( g = (f |_{\textrm{Dom}(g)}) |^{\textrm{Cod}(g)} \)より\( \Gamma_g = \Gamma_f \cap (\textrm{Dom}(g) \times \textrm{Cod}(g)) \subset \Gamma_f \)となるので、再びクラスの組と包含関係の関係性より、\( g = (\textrm{Dom}(g), \textrm{Cod}(g), \Gamma_g) = ( (\textrm{Dom}(g), \textrm{Cod}(g) ), \Gamma_g) \subset ( (\textrm{Dom}(f), \textrm{Cod}(f) ), \Gamma_f) = (\textrm{Dom}(f), \textrm{Cod}(f), \Gamma_f) = f \)となる。従って(2)が成り立つ。

(2)を仮定する。クラスの組と包含関係の関係性及び\( ( (\textrm{Dom}(g), \textrm{Cod}(g) ), \Gamma_g) = (\textrm{Dom}(g), \textrm{Cod}(g), \Gamma_g) = g \subset f = (\textrm{Dom}(f), \textrm{Cod}(f), \Gamma_f) = ( (\textrm{Dom}(f), \textrm{Cod}(f) ), \Gamma_f) \)より、\( \textrm{Dom}(g) \subset \textrm{Dom}(f) \)かつ\( \textrm{Cod}(g) \subset \textrm{Cod}(f) \)かつ\( \Gamma_g \subset \Gamma_f \)である。特に任意の\( x \in \textrm{Dom}(g) \)に対し\( x \in \textrm{Dom}(f) \)かつ\( g(x) = f(x) \)となるので、\( g \)と包含写像\( \textrm{Cod}(g) \hookrightarrow \textrm{Cod}(f) \)の合成は包含写像\( \textrm{Dom}(g) \hookrightarrow \textrm{Dom}(g) \)\( f \)の合成と一致する。即ち\( g \)\( f \)の制限である。従って(1)が成り立つ。

写像の定義域や終域を部分集合に制限したものも再び写像になることが容易に確かめられ、特に、写像による部分集合の像が集合をなすことが分かります。次に、「写像による部分集合の像」の対となる概念として、「写像による部分集合の逆像」という概念を定義します。

定義13(クラス関数による逆像の定義)
\( f \)をクラス関数とする。\( \textrm{Cod}(f) \)の部分クラス\( V \)に対し、\( \{x \in \textrm{Dom}(f) \mid f(x) \in V \} \)\( f \)による\( V \)の逆像(inverse imageまたはpre-image)と呼び、\( f^{-1}(V) \)\( f^{-1}[V] \)*9のように略記する。

クラス関数による部分集合の逆像は必ずしも集合をなしませんが、逆像の定義から、写像による部分集合の逆像は集合をなすということが分かります。

以上でクラス関数及び写像に関する基本的な定義と性質を確認しました。写像を用いることで、集合のある意味での「大きさ」や「有限性」を定式化することが出来ます。それらについては以下を参照して下さい。

次に写像を用いて、「数列」の一般化である「点列」を公理的集合論の中で再定式化します。




*1 つまり、この時点では定義域と終域が集合であるようなクラス関数が写像である保証はありません。しかし、後に課す[[集合に対する分出公理>条件式の定める部分集合の存在#comprehension]]によってそれが保証されます。
*2 記号の濫用ですが、広く普及している流儀であり混乱を生じることはあまりありません。
*3 例えば下部構造の恒等写像を成分に持つ組や多重の組の中で特別なものです。
*4 rangeと呼ぶ流儀もありますが、終域のことをrangeと呼ぶ流儀もあり、紛らわしいです。
*5 条件&mathjax{\textrm{im}(g) \subset \textrm{Dom}(f)};は(3)において&mathjax{f(g(s
*6 cf. [[圏と小圏の例(1)>小圏#small]]
*7 様々な流儀がある中で最も一般的なものの1つが&mathjax{f(U)};ですが、&mathjax{U \subset \textrm{Dom}(f)};かつ&mathjax{U \in \textrm{Dom}(f)};であるような状況では&mathjax{f(U)};が「&mathjax{f};に&mathjax{U};を代入した値」なのか「&mathjax{f};による&mathjax{U};の像」なのか判別できないため、注意が必要です。
*8 文献によっては、定義域のみを制限したもののことを指すこともあります。
*9 様々な流儀がある中で最も一般的なものの1つが&mathjax{f^{-1}(V)};ですが、&mathjax{V \subset \textrm{Cod}(f)};かつ&mathjax{V \in \textrm{Cod}(f)};であるような状況では&mathjax{f^{-1}(V)};が「&mathjax{f};の逆写像に&mathjax{V};を代入した値」なのか「&mathjax{f};による&mathjax{V};の逆像」なのか判別できないため、注意が必要です。