冪集合の存在

Last-modified: Mon, 01 May 2017 20:55:50 JST (1678d)
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第3章 公理的集合論に基づく整数の定式化へ戻る。

ここまでにいくつかの公理で様々な集合の存在を保証させましたが、それらを駆使しても既存の集合からあまり大きな集合を作ることは出来ません。そこで、与えられた集合から格段に大きな集合を与える公理として「冪集合の公理」というものを課します。その準備として、まずは冪集合という概念を定義します。

定義1(冪集合の定義
クラス\( A \)に対し、\( A \)の部分集合全体からなるクラス\( \{ U \mid U \subset A \} \)\( A \)冪集合と呼び、\( \mathscr{P}(A) \)と表記する。

空クラスが任意のクラスに含まれることより\( \emptyset \in \mathscr{P}(A) \)であることが保証されるので、特に\( \mathscr{P}(A) \neq \emptyset \)であることが分かります。また、\( \mathscr{P}(A) \)の定義から、\( A \)自身が集合であることと\( A \in \mathscr{P}(A) \)であることが同値です。それでは冪集合の公理を導入します。

公理2(冪集合の公理)
任意の集合\( X \)に対し、\( \mathscr{P}(X) \)は集合をなす。

冪集合の公理によって集合\( X \)から新たな集合\( \mathscr{P}(X) \)を作る事ができるようになりました。集合の冪集合は元の集合と比べて非常に「大きな」集合となるのですが、集合の大きさを定式化するには「写像」という概念が必要になります。そのため、冪集合がいかに大きいかを説明するのは写像を導入した後に回すことにします*1。代わりに、いくつかの具体例を見て実際に集合が大きくなっていることを確認しましょう。

例3(冪集合の例)
(1) \( \mathscr{P}(\emptyset) = \{ \emptyset \} \)
(2) \( \mathscr{P}(\mathscr{P}(\emptyset) ) = \mathscr{P}(\{ \emptyset \}) = \{ \emptyset, \{ \emptyset \} \} \)
(3) \( \mathscr{P}(\mathscr{P}(\mathscr{P}(\emptyset) ) ) = \mathscr{P}(\{ \emptyset, \{ \emptyset \} \}) = \{ \emptyset, \{ \emptyset \}, \{ \{ \emptyset \} \}, \{ \emptyset, \{ \emptyset \} \} \} \)
(4) \( \begin{array}{rcl} \mathscr{P}(\mathscr{P}(\mathscr{P}(\mathscr{P}(\emptyset) ) ) ) & = & \mathscr{P}(\{ \emptyset, \{ \emptyset \}, \{ \{ \emptyset \} \}, \{ \emptyset, \{ \emptyset \} \} \}) \\ & = & \left\{ \begin{array}{c} \emptyset, \{ \emptyset \}, \{ \{ \emptyset \} \}, \{ \{ \{ \emptyset \} \} \}, \{ \{ \emptyset, \{ \emptyset \} \} \}, \{ \emptyset, \{ \emptyset \} \}, \{ \emptyset, \{ \{ \emptyset \} \} \}, \\ \{ \emptyset, \{ \emptyset, \{ \emptyset \} \} \}, \{ \{ \emptyset \}, \{ \{ \emptyset \} \} \}, \{ \{ \emptyset \}, \{ \emptyset, \{ \emptyset \} \} \}, \{ \{ \{ \emptyset \} \}, \{ \emptyset, \{ \emptyset \} \} \}, \\ \{ \emptyset, \{ \emptyset \}, \{ \{ \emptyset \} \} \}, \{ \emptyset, \{ \emptyset \}, \{ \emptyset, \{ \emptyset \} \} \}, \{ \emptyset, \{ \{ \emptyset \} \}, \{ \emptyset, \{ \emptyset \} \} \}, \\ \{ \{ \emptyset \}, \{ \{ \emptyset \} \}, \{ \emptyset, \{ \emptyset \} \} \}, \{ \emptyset, \{ \emptyset \}, \{ \{ \emptyset \} \}, \{ \emptyset, \{ \emptyset \} \} \} \end{array} \right\} \end{array} \)

ただし、冪集合を取って大きくなるのは集合特有の性質であることに注意して下さい。集合とは限らないクラスの冪集合は必ずしも元のクラスより大きくなる保証がなく、場合によっては元のクラスの部分クラスになってしまうかもしれません。そういう状況の典型が、集合全体のなすクラス\( V \)の冪集合です。クラス\( \mathscr{P}(V) \)の任意の元は集合ですので\( V \)の要素となり、結果的に包含関係\( \mathscr{P}(V) \subset V \)が成立してしまいます。

それでは、写像を定式化する準備として、次は「順序対」という概念を導入します。




*1 cf. [[カントールの定理>コラム 集合の対等性#cantor]]