準備1 小数展開を用いたp進数の定式化
まず最初に述べたいことは、「\( p \)進数」のように「何とか進数」の形をした用語には大きく分けて2種類あるということです。これらはとても紛らわしいので、\( p \)進数の詳しい説明に入る前に用語の区別をしておきます。
定義1 |
(1) \( 2 \)以上の整数\( n \)に対し、\( n \)進法表記で表された整数のことを\( n \)進数と呼ぶ。 |
(2) 素数\( p \)に対し、整数環\( {\bf Z} \)の\( p \)進完備化の商体の元を\( p \)進数と呼ぶ。 |
ただ用語を区別したいだけなので、定義\( 1 \)を現段階で理解できる必要はありません。すんなり理解できる人はいきなり第6章へ飛んでいただいて結構です。
数学を専門としない人にとって馴染み深いのは恐らく(1)の用法で、\( 10 \)進数*1や\( 12 \)進数や\( 16 \)進数という言葉に聞き覚えがある人も多いのではないでしょうか。それに対してEncyclopedia of \( P \)-adic Numbersで主として扱うのは(2)の用法です。(2)の用法は素数にしか使えないので、\( 10 \)進数や\( 12 \)進数や\( 16 \)進数のように素数でない数が現れている場合は(1)の用法であることが確定しますが、\( 2 \)進数と言った時に(1)と(2)のどちらの用法なのかは文脈で判断することになります。それではあまりに煩雑になってしまうので、Encyclopedia of \( P \)-adic Numbersでは(1)の用法を一切使わないことにします。即ち\( 2 \)以上の整数\( n \)に対して、\( n \)進法表記で表された整数のことをそのまま略さず「\( n \)進法表記で表された整数」と呼ぶことにし、また実数を\( n \)進法で表記する際には右下に\( (n) \)と書くことにします。\( 10 \)進法表記の時のみ特に何も右下に書かないことにします。以下に、\( n \)進法表記の例を挙げておきます。
さて、一旦区別をした上で、定義1については忘れて下さい。何故なら、定義1は区別の必要性と意図を説明する都合で導入しただけで、そこに現れる諸概念(例えば\( p \)進完備化等)が未定義だからです。それらを扱うのはまだまだ先なので、ここからは真っさらな気持ちで\( p \)進数の導入を読み進めて下さい。
*1 「&mathjax{10};進法」や「&mathjax{10};進数」という日本語表記を好まない人もおり、「十進法」や「十進数」と表記する場合もあります。大して違わないようですが、&mathjax{10};という数字はそれ自身が何進法で表記されているか不明瞭なので、例えば「&mathjax{10};進法」と言った時の&mathjax{10};自身が&mathjax{2};進法表記された整数の場合は「&mathjax{2};進法」のことに他ならないのです。ただし慣習として&mathjax{10};進法と言った時の&mathjax{10};は十進法表記されたの十のことを指すことが大半なので、気にしない人は気にしません。このように、&mathjax{2};桁以上の整数は何進法表記を採用しているかによって表す値が異なることを頭の片隅に置いておくと、話の種になる程度の利点があります。逆に&mathjax{1};桁の数は何進法表記でも同じ値を指すので、例えば&mathjax{2 \times 5};や&mathjax{9 + 1};のように&mathjax{1};桁の数の組み合わせで書いておけば紛れのない表記になります。