第1章 素朴なp進数の定式化

Last-modified: Sun, 30 Apr 2017 13:13:08 JST (1679d)
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ここでは合同式数列のような、整数論で頻繁に扱う基本的な概念についての知識を仮定した上で、\( p \)進数の定義やそれと等価なものを与えていきます。知識を仮定するということは、特に合同式や数列という概念の厳密な定義を既知のものとして認める、またはあえて定義はぼかしておくということです。

本来、数学の厳密な議論をするためには厳密な定義の上で演繹をする必要があるので、合同式や数列のように直感的に定義が分かる気がするものでも厳密に定義を与えなければなりません。合同式も数列も高校までで扱われますが、それらの厳密な定義を扱うことは少ないと思います。そう聞くと意外に感じられるかもしれませんが、そもそも合同式や数列を定義するには自然数を定義する必要があり、高校まででは近代数学の意味での「自然数の厳密な定義」を説明することが難しいのです。

例えば自然数の定義を考えてみて下さい。「\( 0{} \)以上の整数」や流儀によっては「正の整数」という答えを思い付いた人は、整数の定義を考えてみて下さい。整数の定義には通常自然数が用いられるので、普通に考えると定義が循環してしまいます。他にも「\( 0{} \)\( 1 \)\( 2 \)、……と表される数のこと」という答えもありますね。しかし「……」の部分に何が入るのかが厳密に述べられていないので定義になっていません。では「\( 0{} \)\( 1 \)を有限回足して得られる数」という答えはどうでしょう。一見すると正解なようですが、ちょっと踏み留まって「有限回」の定義を考えてみて下さい。有限性の定義には通常自然数が用いられるので、普通に考えると定義が循環してしまいます。それならば、「物の個数に対応する数のこと」という答えならどうでしょう。これも残念ながら、宇宙に存在する物質の個数に限りがあるかもしれないので、実際にどんな自然数\( n \)に対しても\( n \)個の物が実在する保証がありません。そもそも現実の「物」という可変な対象を用いて数学の「自然数」という不可変な理論を記述するのは少し無理があります。

それでは実際に自然数をどうやって近代数学で扱うかと言いますと、1つにはペアノ算術と呼ばれる理論のような「自然数と四則演算が満たすべき性質を十分多く列挙する理論」を与えることで自然数そのものは定義せずとも「自然数論」という形式的な理論体系を定義しますし、もう1つには公理的集合論を用いて具体的に自然数の集合を定義します。Encyclopedia of \( P \)-adic Numbersでは前者を扱いませんが、後者については第2章で説明していきます。それを用いて合同式や数列という概念も厳密に定義していきます。