Last-modified: Sun, 04 Jun 2017 21:34:01 JST (1644d)
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ここではモノイドのうち特に重要なものとして、「群」という概念を紹介します。そのために、「逆元」という概念を導入します。

定義1(逆元の定義)
モノイド\( (G,\bullet) \)の元\( g \in G \)に対し、元\( h \in G \)\( g \)\( (G,\bullet) \)における逆元であるとは、\( g \cdot h = 1_{(G,\bullet)} = h \cdot g \)が成り立つということである。また\( g \)\( (G,\bullet) \)において可逆(invertible)または\( (G,\bullet) \)の可逆元(invertible element)であるとは、\( g \)\( (G,\bullet) \)における逆元が存在するということである。

混乱のおそれがない限り、\( (G,\bullet) \)における可逆元のことを単に可逆元と呼んだり、\( g \)\( (G,\bullet) \)における逆元のことを単に\( g \)の逆元と呼んだりします。\( 1_{(G,\bullet)} \cdot 1_{(G,\bullet)} = 1_{(G,\bullet)} \)であることから、\( 1_{(G,\bullet)} \)\( 1_{(G,\bullet)} \)自身の逆元であり、特に\( 1_{(G,\bullet)} \)が可逆元であることが分かります。全ての元が可逆であるようなモノイドを群(group)と呼びます。

単位元と同様に、与えられた元の逆元が、実は高々1つしか存在しないことを確かめましょう。

命題2(モノイドの逆元の一意性)
任意のモノイド\( (G,\bullet) \)と任意の\( g \in G \)に対し、\( g \)\( (G,\bullet) \)における逆元は一意である。

証明

\( h \in G \)\( h' \in G \)\( g \)\( (G,\bullet) \)における逆元とする。\( h = h \cdot 1_{(G,\bullet)} = h \cdot (g \cdot h') = (h \cdot g) \cdot h' = 1_{(G,\bullet)} \cdot h' = h' \)である。従って\( g \)\( (G,\bullet) \)における逆元は一意である。

モノイド\( (G,\bullet) \)の可逆元\( g \in G \)の唯一の逆元を\( g^{-1} \)と書くことが多いです。この表記は\( (G,\bullet) \)に関する情報が何も見えないので、\( g \)を可逆元に持つモノイドが複数現れている場合には曖昧な表記となってしまいますが、それで混乱が生じることはあまりありません。逆元の定義から、任意の可逆元\( g \in G \)に対して\( g^{-1} \)も可逆であり\( (g^{-1})^{-1} = g \)が成り立つことが分かります。

また加法的記法の可換モノイド\( (G,+) \)に対しては\( g^{-1} \)ではなく\( -g \)で可逆元\( g \in G \)の逆元を表すことが慣例です。その場合は\( (g_i)_{i \in 2} \in G^2 \)に対して、\( g_1 \)が可逆元である場合に\( g_0 + (-g_1) \)\( g_0 - g_1 \)と略記することが多いです。

マグマの部分群(subgroup)とは、部分マグマであって(制限された演算に関して)群をなすもののことです*1。さて、群の例を確認しましょう。

例3(群の例)
(1) \( \mathbb{Z} \)\( \mathbb{Z}_p \)は加法に関して可換群をなすが、乗法に関しては群でないような可換モノイドをなす。更に、\( \{ 1, -1 \} \subset \mathbb{Z} \)\( \mathbb{Z}_p \setminus p \mathbb{Z}_p \subset \mathbb{Z}_p \)\( 1 + p \mathbb{Z}_p \subset \mathbb{Z}_p \)は乗法に関して群をなす*2
(2) \( \mathbb{Q} \)\( \mathbb{Q}_p \)は加法に関して可換群をなすが、乗法に関しては群でないような可換モノイドをなす。更に、\( \mathbb{Q} \setminus \{ 0 \} \subset \mathbb{Q} \)\( \mathbb{Q}_p \setminus \{ 0 \} \subset \mathbb{Q}_p \)\( \{ p^n \mid n \in \mathbb{Z} \} \subset \mathbb{Q}_p \)は乗法に関して可換群をなす*3
(3) 任意の集合\( e \)に対して、1元集合\( \{ e \} \)は写像\( \{ e \}^2 \to \{ e \}, \ (e,e) \mapsto e \)に関して可換群をなす。このように1元集合を台集合に持つ群を自明群と呼ぶ。
(4) 任意のモノイド\( (G,\bullet) \)に対して、その可逆元全体のなす部分集合\( (G,\bullet)^{\textrm{inv}} := \{ g \in G \mid \exists h \in G, h \cdot g = 1_{(G,\bullet)} = g \cdot h \} \)\( (G,\bullet) \)の部分群をなす。

群の例(4)群の例(1)、(2)と密接に関係しています。実際、\( \mathbb{Z} \)\( \mathbb{Z}_p \)\( \mathbb{Q} \)\( \mathbb{Q}_p \)の乗法についての可逆元全体がそれぞれ\( \{ 1, -1 \} \)\( \mathbb{Z}_p \setminus p \mathbb{Z}_p \)\( \mathbb{Q} \setminus \{ 0 \} \)\( \mathbb{Q}_p \setminus \{ 0 \} \)に一致します。

\( \mathscr{C} \)\( X \in \textrm{ob}(\mathscr{C}) \)に対して、半群とモノイドの例(3)において\( \textrm{End}_{\mathscr{C}}(X) \)にモノイド構造を与えましたが、群の例(4)によって新たな群\( \textrm{End}_{\mathscr{C}}(X)^{\textrm{inv}} \)を得ます*4。この群を\( X \)\( \mathscr{C} \)における自己同型群と呼び、\( \textrm{Aut}_{\mathscr{C}}(X) \)と表記し、その元を\( X \)\( \mathscr{C} \)における自己同型と呼びます。混乱のおそれがない限り、\( X \)\( \mathscr{C} \)における自己同型群(もしくは自己同型)を単に\( X \)の自己同型群(もしくは自己同型)と呼びます。色々な圏の色々な対象の自己同型群は、整数論を始めとする数学の多くの分野で重要な役割を果たします。例えば後に定義する「体」及び「代数」という概念を用いて構成される圏からは自己同型群として「ガロア群」と呼ばれる群が現れるということは特筆すべきことでしょう。ガロア群は「ガロア理論」と呼ばれる初等的かつ深淵な理論で扱われ、近代的な整数論の根幹を支える概念の1つです。

更に小圏\( \mathscr{C} \)に対し、小圏全体が圏をなすことにより\( \mathscr{C} \)自身が\( \textrm{Cat} \)という圏の対象であることから、\( \textrm{Aut}_{\textrm{Cat}}(C) \)のような群を考えることが出来ます。例えばモノイド\( (G,\bullet) \)に対応する小圏\( G \)\( \textrm{Cat} \)における自己同型群\( \textrm{Aut}_{\textrm{Cat}}(G) \)は、多くの場合で\( G \)とかけ離れた難しい群になります。後に「モノイド準同型」という概念を用いて\( \textrm{Aut}_{\textrm{Cat}}(G) \)の別の側面を説明します。

一般に与えられた群「そのもの」を公理的集合論で定式化した「集合として」決定することは難しくかつ多くの場合にあまり意味はないので、似た性質を持つ群と比較することで、台集合の公理的集合論における実装を忘れても残る性質のみを調べます。大雑把には、台集合が異なるけれど群構造が同じような性質を持つような群と「同型」という概念を用いて結び付けることで、抽象的な群を具体的によく分かっている群と比較します。この同型という概念も、やはりモノイド準同型というものを用いて定式化されるものなので、その説明は後回しにします。

以上でモノイドから小圏を作り、また圏の射や小圏の自己への関手を用いて新たなモノイドや群を作ることも出来ました。更に、圏を用いてモノイドや群の概念を拡張し、「亜群」や「モノイド対象」や「群対象」という概念を定式化することが出来ますので、次はそれらについて見てみましょう。

  • 群準同型
  • 群作用
  • 群と普遍性



*1 この定義を群に適用すると「群の部分群」という概念が定義されますが、群の部分群の定義は「部分マグマであって(制限された演算に関して)モノイドをなし、かつ単位元と逆元を元の群と共有するもの」とする流儀も一般的だと思います。その違いについては[[章末問題7 演習2>章末問題7#second]]を参照して下さい。
*2 加法は&mathjax{\{ 1, -1 \}};や&mathjax{\mathbb{Z}_p \setminus p \mathbb{Z}_p};や&mathjax{1 + p \mathbb{Z}_p \subset \mathbb{Z}_p};に制限することが出来ません。
*3 加法は&mathjax{\mathbb{Q} \setminus \{ 0 \}};や&mathjax{\mathbb{Q}_p \setminus \{ 0 \}};や&mathjax{\{ p^n \mid n \in \mathbb{Z} \}};に制限することが出来ません。
*4 &mathjax{\textrm{End}_{\mathscr{C}}(X)};と合成規則の制限の組のなすモノイドを、その台集合である&mathjax{\textrm{End}_{\mathscr{C}}(X)};で略記しています。