自然数の掛け算の定義

Last-modified: Thu, 12 Jan 2017 22:36:21 JST (1787d)
Top > 自然数の掛け算の定義

そして自然数の掛け算を導入します。

命題1(自然数の乗算の一意存在性)
ただ1つの写像\( {\times} \colon \mathbb{N}^2 \to \mathbb{N}, \ (n,m) \mapsto n \times m \)が存在し、以下を満たす:
(1) 任意の\( n \in \mathbb{N} \)に対し\( n \times 0 = 0 \)
(2) 任意の\( (n,m) \in \mathbb{N}^2 \)に対し\( n \times (m + 1) = (n \times m) + n \)

証明

\( n \in \mathbb{N} \)とする。写像\( \mathbb{N} \to \mathbb{N}, m \mapsto m + n \)\( f_n \)と置く。2項間漸化式の解の一意存在性により、\( \mathbb{N} \)の点列\( (a_{n,m})_{m \in \mathbb{N}} \)であって\( \mathbb{N} \)に2項間漸化式\( (0,f_n) \)を満たすものがただ1つ存在する。

写像\( \mathbb{N}^2 \to \mathbb{N}, \ (n,m) \mapsto a_{n,m} \)\( {\times} \)と置く。まず任意の\( n \in \mathbb{N} \)に対し\( n \times 0 = a_{n,0} = 0 \)である。次に任意の\( (n,m) \in \mathbb{N}^2 \)に対し\( n \times (m + 1) = a_{n,m+1} = f_n(a_{n,m}) = f_n(n \times m) = (n \times m) + n \)である。

また、写像\( {\otimes} \colon \mathbb{N}^2 \to \mathbb{N} \)が任意の\( n \in \mathbb{N} \)に対し\( n \otimes 0 = 0 \)を満たし、かつ任意の\( (n,m) \in \mathbb{N}^2 \)に対し\( n \otimes (m + 1) = (n \otimes m) + n \)を満たすとする。\( {\otimes} = {\times} \)を示す。\( n \in \mathbb{N} \)とする。まず\( n \otimes 0 = 0 \)である。また任意の\( m \in \mathbb{N} \)に対し、\( n \otimes (m + 1) = (n \otimes m) + m = f_n(n \otimes m) \)である。従って\( (n \otimes m)_{m \in \mathbb{N}} \)は2項間漸化式\( (0,f_n) \)を満たす。2項間漸化式の解の一意存在性により、\( (n \otimes m)_{m \in \mathbb{N}} = (a_{n,m})_{m \in \mathbb{N}} = (n \times m)_{m \in \mathbb{N}} \)である。

それでは掛け算\( {\times} \)の性質を確認しましょう。自然数の和算の基本性質と同様に、かなり骨が折れます。

定理2(自然数の掛け算の基本性質)
(1) 任意の\( n \in \mathbb{N} \)に対し\( n \times 1 = n \)
(2) 任意の\( (n,m,l) \in \mathbb{N}^3 \)に対し、\( m \in n \)かつ\( l \neq 0 \)ならば\( m \times l \in n \times l \)
(3) 任意の\( (n,m,l) \in \mathbb{N}^3 \)に対し、\( l \neq 0 \)かつ\( m \times l = n \times l \)ならば\( m = n \)
(4) 任意の\( (n,m,l) \in \mathbb{N}^3 \)に対し\( n \times (m + l) = (n \times m) + (n \times l) \)
(5) 任意の\( (n,m,l) \in \mathbb{N}^3 \)に対し\( (n \times m) \times l = n \times (m \times l) \)
(6) 任意の\( (n,m) \in \mathbb{N}^2 \)に対し\( n \times m = m \times n \)

証明

(1) 任意の\( n \in \mathbb{N} \)に対し\( n \times 1 = n \times (0 + 1) = (n \times 0) + n = 0 + n = n \)である。

(2) \( (n,m) \in \mathbb{N}^2 \)とし、\( m \in n \)とする。任意の\( l \in \mathbb{N} \)に対し、\( l \neq 0 \)ならば\( m \times l \in n \times l \)であることを数学的帰納法で示す*1。まず\( 0 \neq 0 \)でない。次に\( m \times 1 = m \in n = n \times 1 \)である。また\( l \in \mathbb{N} \)\( m \times l \in n \times l \)を満たすとすると、仮定と自然数の加法の基本性質から\( m \times (l + 1) = (m \times l) + m \in (n \times l) + m \in (n \times l) + n = n \times (l + 1) \)となり、自然数が順序数であることから\( m \times (l + 1) \in n \times (l + 1) \)である。すなわち任意の\( l \in \mathbb{N} \)に対し、\( l \neq 0 \)ならば\( m \times l \in n \times l \)である。

(3) \( (n,m) \in \mathbb{N}^2 \)とする。任意の\( l \in \mathbb{N} \)に対し、\( l \neq 0 \)かつ\( m \times l = n \times l \)ならば\( m = n \)であることを数学的帰納法で示す*2。まず\( 0 \neq 0 \)でない。次に\( m \times 1 = n \times 1 \)ならば\( m = m \times 1 = n \times 1 = n \)である。また\( l \in \mathbb{N} \)\( l \neq 0 \)かつ\( m \times l = n \times l \)ならば\( m = n \)を満たすとする。\( m \times (l + 1) = n \times (l + 1) \)と仮定する。\( l = 0 \)ならば\( m = m \times 1 = m \times (l + 1) = n \times (l + 1) = n \times 1 = n \)である。\( l \neq 0 \)とする。\( (m \times l) + m = m \times (l + 1) = n \times (l + 1) = (n \times l) + n \)となる。\( m \in n \)と仮定すると、\( l \neq 0 \)より\( m \times l \in n \times l \)であり、自然数の加法の基本性質から\( (m \times l) + m \in (m \times l) + n \in (n \times l) + n \)となる。これは自然数が順序数であること順序数の正則性に反し、矛盾する。従って\( m \notin n \)である。\( n \in m \)と仮定すると、\( l \neq 0 \)より\( n \times l \in m \times l \)であり、自然数の加法の基本性質から\( (n \times l) + n \in (m \times l) + n \in (m \times l) + m \)となる。これは自然数が順序数であること順序数の正則性に反し、矛盾する。従って\( n \notin m \)である。自然数が順序数であること三分律から\( m = n \)である。以上より、任意の\( l \in \mathbb{N} \)に対し、\( l \neq 0 \)かつ\( m \times l = n \times l \)ならば\( m = n \)である

(4) \( (n,m) \in \mathbb{N}^2 \)とする。まず\( n \times (m + 0) = n \times m = (n \times m) + 0 = (n \times m) + (n \times 0) \)である。また任意の\( l \in \mathbb{N} \)に対し\( n \times (m + (l + 1) ) = n \times ( (m + l) + 1) = (n \times (m + l) ) + n \)かつ\( (n \times m) + (n \times (l + 1) ) = (n \times m) + ( (n \times l) + n) = ( (n \times m) + (n \times l) ) + n \)である。従って写像\( \mathbb{N} \to \mathbb{N}, \ l \mapsto n \times (m + l) \)\( \mathbb{N} \to \mathbb{N}, \ l \mapsto (n \times m) + (n \times l) \)は共に2項間漸化式\( (n \times m,f_n) \)を満たす。2項間漸化式の解の一意存在性により、\( (n \times (m + l) )_{l \in \mathbb{N}} = ( (n \times m) + (n \times l) )_{l \in \mathbb{N}} \)である。

(5) \( (n,m) \in \mathbb{N}^2 \)とする。\( (n \times m) \times 0 = 0 = n \times 0 = n \times (m \times 0) \)であり、また任意の\( l \in \mathbb{N} \)に対し、\( (n \times m) \times (l + 1) = ( (n \times m) \times l) + (n \times m)) \)かつ\( n \times (m \times (l + 1) ) = n \times ( (m \times l) + m) = (n \times (m \times l) ) + (n \times m) \)である。従って写像\( \mathbb{N} \to \mathbb{N}, \ l \mapsto (n \times m) \times l \)\( \mathbb{N} \to \mathbb{N}, \ l \mapsto n \times (m \times l) \)は共に2項間漸化式\( (0,f_{n \times m}) \)を満たす。2項間漸化式の解の一意存在性により、\( ( (n \times m) \times l)_{l \in \mathbb{N}} = (n \times (m \times l) )_{l \in \mathbb{N}} \)である。

(6) 任意の\( (n,m) \in \mathbb{N}^2 \)に対し\( n \times m = m \times n \)が成り立つことを示す。そのために、任意の\( (n,m) \in \mathbb{N}^2 \)に対し\( (n + 1) \times m = m + (n \times m) \)が成り立つことを示す。\( n \in \mathbb{N} \)とする。まず\( (n + 1) \times 0 = 0 = 0 + 0 = 0 + (n \times 0) \)である。次に任意の\( m \in \mathbb{N} \)に対し\( (n + 1) \times (m + 1) = ( (n + 1) \times m) + (n + 1) \)かつ\( (m + 1) + (n \times (m + 1) ) = (1 + m) + (n \times (m + 1) ) = 1 + (m + (n \times (m + 1) ) ) = 1 + (m + ( (n \times m) + n) ) = (n + 1) + (m + (n \times m) ) \)である。従って写像\( \mathbb{N} \to \mathbb{N}, \ m \mapsto (n + 1) \times m \)\( \mathbb{N} \to \mathbb{N}, \ m \mapsto m + (n \times m) \)は共に2項間漸化式\( (0,f_{n + 1}) \)を満たす。2項間漸化式の解の一意存在性により、\( ( (n + 1) \times m)_{m \in \mathbb{N}} = (m + (n \times m) )_{m \in \mathbb{N}} \)である。

\( m \in \mathbb{N} \)とする。まず\( 0 \times m = 0 = m \times 0 \)である。次に任意の\( n \in \mathbb{N} \)に対し、\( (n + 1) \times m = m + (n \times m) = f_m(n \times m) \)かつ\( m \times (n + 1) = (m \times n) + m = f_m(m \times n) \)である。従って写像\( \mathbb{N} \to \mathbb{N}, \ n \mapsto n \times m \)\( \mathbb{N} \to \mathbb{N}, \ n \mapsto m \times n \)は共に2項間漸化式\( (0,f_m) \)を満たす。2項間漸化式の解の一意存在性により、\( (n \times m)_{n \in \mathbb{N}} = (m \times n)_{n \in \mathbb{N}} \)である。

掛け算の基本性質を確認しました。それでは、これらを使って実際に計算をしてみましょう。

演習3(引き算の計算演習)
以下を計算せよ。
(1) \( 1 \times 1 \)
(2) \( 1 \times 2 \)
(3) \( 3 \times 2 \)
(4) \( 2 \times 4 \)
(5) \( 3 \times 3 \)

以上で掛け算に慣れることが出来たと思います。それでは次に割り算を導入します。

  • 自然数の割り算の定義
  • 直積の定義
  • 直和の定義
  • 整数の定義



*1 つまり[[量化の有界な>述語論理#bounded]][[論理式>述語論理#substitution]]&mathjax{\Phi(x)};を&mathjax{(x \neq 0) \to (\exists a \in \mathbb{N}, \exists b \in a,( ( (m,x), a) \in \Gamma_{\times}) \wedge ( ( (n,x),b) \in \Gamma_{-}) )};と置き、&mathjax{\Phi(x)};に対し[[数学的帰納法>コラム 数学的帰納法#induction]]を適用するという意味です。
*2 つまり[[量化の有界な>述語論理#bounded]][[論理式>述語論理#substitution]]&mathjax{\Phi(x)};を&mathjax{( (x \neq 0) \wedge ( (\exists a \in \mathbb{N},( ( (m,x),a) \in \Gamma_{\times}) \wedge ( ( (n,x),a) \in \Gamma_{\times}) ) ) \to (m = n)};と置き、&mathjax{\Phi(x)};に対し[[数学的帰納法>コラム 数学的帰納法#induction]]を適用するという意味です。