順序半群

Last-modified: Fri, 09 Jun 2017 22:06:01 JST (2505d)
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ここでは「非負全順序可換モノイド」と「全順序可換群」という概念を導入します。その準備として、双方より広い「順序半群」という概念を定義します。

定義1(順序半群の定義)
順序半群(ordered semigroupまたはpartially ordered semigroupまたはposemigroup)とは、半群\( G \)とその下部構造の集合の上の半順序\( \leq \)の組\( (G,\leq) \)であって、以下を満たすもののことである:
任意の\( (g_i)_{i \in 3} \in G^3 \)に対し、\( g_0 \leq g_1 \)ならば\( g_0 g_2 \leq g_1 g_2 \)である。

\( (G,\leq) \)順序半群とします。\( \leq \)を明示しなくても明確である場合は\( (G,\leq) \)を単に\( G \)と略記することが多いです。第1成分\( G \)\( (G,\leq) \)下部構造の群(underlying group)と呼び、\( \leq \)\( (G,\leq) \)半順序と呼びます。Encyclopedia of \( P \)-adic Numbersでは順序と言えば全順序を指していたので紛らわしいですが、\( \leq \)は全順序である必要がありません。\( \leq \)が全順序である場合、\( (G,\leq) \)順序半群(totally ordered semigroup)または線形順序半群(linearly ordered semigroup)と呼びます。

\( G \)がモノイドもしくは群もしくは可換群である場合は\( (G,\leq) \)順序モノイド(ordered monoidまたはpartially ordered monoidまたはpomonoid)もしくは順序群(ordered groupまたはpartially ordered groupまたはpogroup)もしくは順序可換群(ordered commutative groupまたはpartially ordered commutative group)または順序アーベル群(ordered Abelian groupまたはpartially ordered Abelian group)と呼びます。より一般に、「半順序」か「全順序」のいずれかの文字列である「○順序」と、半群であるような代数構造の名称「×群」に対して、\( G \)が×群かつ\( \leq \)が○順序である場合は\( (G,\leq) \)○順序×群と呼びます。○順序×群は自然に圏をなします。

定義2(順序半群の圏の定義)
「半順序」か「全順序」のいずれかの文字列である「○順序」と、半群であるような代数構造の名称「×群」に対して、○順序×群のクラスと単調半群準同型のクラスは\( \textrm{Set} \)下部構造に持つ圏をなし、これを○順序×群の圏と呼ぶ。

順序半群の例を挙げる前に、少し用語を導入しましょう。全順序可換モノイド\( (G,\leq_G) \)に対し、\( G \)の単位元\( 0_G \)との大小関係によって正負の概念を定義します。即ち、元\( g \in G \)正(positive)であるとは\( g \geq 0_G \)かつ\( g \neq 0_G \)であるということで、負(negative)であるとは\( g \leq 0_G \)かつ\( g \neq 0_G \)であるということです。正でないということを非正(non-positive)と言い、負でないということを非負(non-negative)と言います。全ての元が非負であるような全順序可換モノイドは「超距離空間」という\( p \)進の重要な対象を更に一般化する上で便利になるので、ここだけの名前を付けておくことにします。

定義3(非負全順序可換モノイドの定義)
全順序可換モノイド\( (G,\leq_G) \)非負(non-negative)であるとは、任意の\( g \in G \)が非負ということである。

全順序可換モノイドの正の元が逆元を持つならばそれは負の元となるので、非負全順序可換モノイドは単位元以外に逆元を持たないということが分かります。それでは順序半群の例を見ていきましょう。

例4(順序半群の例)
(1) \( \mathbb{N} \)は通常の加法と通常の大小関係について非負全順序可換モノイドをなし、通常の乗法と通常の大小関係についても順序群でなく非負でもない全順序可換モノイドをなす。
(2) \( \mathbb{Z} \)\( \mathbb{Q} \)は通常の加法と通常の大小関係について全順序可換群をなすが、通常の乗法と通常の大小関係については順序半群をなさない。
(3) 任意の半群\( G \)は自明半順序について順序半群をなす。
(4) 任意の全順序集合\( (S,\leq_S) \)\( \leq_S \)に関する\( \max \)関数\( \max_S \)について全順序可換半群をなす。また、全順序半群\( ( (S,\max_S),\leq_S) \)が全順序可換モノイドをなす必要十分条件は\( (S,\leq_S) \)が最小元\( 0_S \in S \)を持つことであり、またその時は\( 0_S \)\( (S,\max_S) \)の単位元となり\( ( (S,\max_S),\leq_S) \)は非負となる。
(5) 「○順序」を「半順序」か「全順序」のいずれかの文字列であるとし、「×群」を「半群」か「可換半群」のいずれかの文字列とする。任意の○順序×群\( (G,\leq_G) \)に対し、\( G \)\( 0{} \)を吸収元として添加した×群\( G \sqcup \{ 0 \} \)\( \leq_G \)\( 0{} \)を最小元として添加した○順序\( \leq_{G \sqcup \{ 0 \}} \)の組\( (G \sqcup \{ 0 \},\leq_{G \sqcup \{ 0 \}}) \)は○順序×群をなす。ここでは\( (G \sqcup \{ 0 \},\leq_{G \sqcup \{ 0 \}}) \)のことを\( (G,\leq_G) \)\( 0{} \)を吸収元かつ最小元として添加した○順序×群と呼ぶことにします。

全順序可換群は「付値」という\( p \)進の基本概念を抽象的に定式化するために重要なもので、また逆に「付値体」という付値に関係した概念から「値群」と呼ばれる全順序可換群を具体的に構成することが出来ます。詳しくは次へ進んで確認しましょう。