実数

Last-modified: Thu, 27 Apr 2017 10:47:36 JST (2557d)
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補遺2 何かの反例に使えそうな集合へ戻る。

実数という概念がありますが、その名前から「実数とは実在する数のことである」と認識している人が一定数います。それどころか、「純虚数は存在しない数である」と考える人までいます。そういった人々の中で、実数の厳密な定義を知っている人がどれだけの割合でいるのか、興味深いところです。実数の定義を知らない人達の多くは恐らく、実数の定義を知ることで「実数とは実在する数である」という認識が揺らぐと予想しています。


ここでは実数の定義を述べる予定です。

(編集中)

以上で実数の定義を述べたことにして下さい*1


この、何かの反例を無理やり作ったかのような実数の定義を見て、まだ「実数とは実在する数のことである」と断言できる人は少数派なのではないでしょうか? もちろん、実在とは何かを定義していない以上これは部分的に主観的な主張であり、そう述べることは個々人の自由ですが、少しは現実を見直して懐疑的になることも大切だと思います。

例えば「2辺の長さが\( 2 \)の直角二等辺三角形のもう1辺の長さは\( 2 \sqrt[]{2} \)という実数じゃないか!」とか「半径\( 1 \)の円の面積は\( \pi \)という実数じゃないか!」と考えた人は頭を冷やしましょう。長さの定義自体、そもそも実数を使っているので当たり前です。換言すると、「実数を用いて定義される概念を計算すると実数が現れるじゃないか!」と喚いているに過ぎません。それが許されるなら、「2辺の長さが\( 2 \)の直角二等辺三角形のもう1辺の端点間の\( 2 \)進距離*2\( 2 \mathbb{Z}_2^{\times} \in \mathbb{Q}_2^{\times}/\mathbb{Z}_2^{\times} \sqcup \{ 0 \} \)という\( 2 \)進数を使って表される数*3じゃないか!」とか「(実平面内のではなく\( p \)進直線内の)半径\( 1 \)の円は\( p \)進整数環\( \mathbb{Z}_p \)と同一視出来るじゃないか!」とか言うことも出来ます。

もちろん、実数は現実世界をモデルとして形式化した「数」でしょう。従って現実の世界の法則を記述するために優れた「数」であることは疑いの余地がありません。しかしこれは実数が現実世界が完全に記述できることを保証しませんし、実数を何ら特徴付けてはいません。例えば相対性理論や量子力学を記述する上では純虚数だって非常に重要な役割を持ちます。それどころか、物理学や生物学や認知科学を始めとして、自然科学の最先端な理論段階で\( p \)進数が少しずつ現れ始めており[要出典]、いずれは科学の進歩によって\( p \)進数もまた「現実の世界の法則を記述するために優れた数」であると言われる未来が来るかもしれません。そのような未来が来ないと確信を持てる大科学者なら実数の定義を熟知した上でも「実数とは実在する数のことである」と断言できるかもしれませんが、そうでない人が「実数とは実在する数のことである」と断言しつつ\( p \)進数や純虚数を「実在しない数」と認識し机上の空論として軽視しているのであれば、どこかに定義の誤解や無意識的な思考の放棄があるのではないかと疑ってしまいます。

余談ですが、公理的集合論が実在する「集まり」の理論かどうかを考えると、また違った見方も出来ます。公理的集合論の上でも実数を構成することが出来るわけですが、例えばZF公理系だけでは「ルベーグ非可測集合の存在」や「ハメル基底の存在」という実数の基本的な命題が証明も反証も出来ませんし、ZFC公理系を用いても「\( \mathbb{R} \)の部分集合であって可算でなく\( \mathbb{R} \)へ全射を持たないものの非存在」と同値である連続体仮説は証明も反証も出来ません。もし実数が実在する「数」で公理的集合論も実在する「集まり」に適用可能な理論であるとしたら、現実でもZF公理系やZFC公理系は成り立つのでしょうか? 現実にルベーグ非可測集合やハメル基底は存在するのでしょうか? 連続体仮説は現実で成り立つのでしょうか? どうも、現実をモデルとして形式化した数学をそのまま現実世界に当てはめるのは安直な話でないようです。

以上はもちろん、既に断ったように実在を定義しているわけではないので、部分的に主観的な小話です。絶対的な見方ではありませんので、その点はご注意下さい。




*1 [[Encyclopedia of &mathjax{P};-adic Numbers>FrontPage]]の編集チームに[[実数の定義>実数#definition]]を説明したい人がいないため、この項目が加筆されにくくなっております。
*2 超距離であり、その値は順序モノイド&mathjax{\mathbb{Q}_2^{\times}/\mathbb{Z}_2^{\times} \sqcup \{ 0 \}};の元として実現されます。もちろん&mathjax{\mathbb{Q}_2^{\times}/\mathbb{Z}_2^{\times} \sqcup \{ 0 \}};を&mathjax{\mathbb{R}};に埋め込む方法はいくつかあり、例えば典型的には&mathjax{2 \mathbb{Z}_2^{\times} \in \mathbb{Q}_2^{\times}/\mathbb{Z}_2^{\times}};を&mathjax{\frac{1}{2} \in \mathbb{R}};に送ることで、実数に値を取るとみなすことも出来ます。
*3 直前の脚注の方法で実数に対応させる場合は、&mathjax{\frac{1}{2} \in \mathbb{R}};となります。