超距離空間
ここでは本来「超距離空間」という概念を扱いたいのですが、説明の都合で超距離空間より少し広い概念として、ここだけの用語で「一般化された超距離空間」というものを導入します。後に述べるように、付値体は一般化された超距離空間であって超距離空間とは限らないものの構造を自然に持ち、この事実こそが一般化された超距離空間を考える利点となります。
まず\( ( (P,\vee),\leq_P) \)を非負全順序可換モノイドとし、\( (P,\vee) \)の単位元を\( 0_P \in P \)と書くことにします。\( \leq_P \)に関する\( \max \)関数\( P^2 \to P \)を\( \max_P \)で表すことにします。すると\( ( (P,\max_P),\leq_P) \)もまた非負全順序可換モノイドをなし、\( 0_P \)が\( (P,\max_P) \)の単位元をなすことが分かります*1。Encyclopedia of \( P \)-adic Numbersで主に興味があるのは\( \vee = \max_P \)の場合ですが、後で「距離空間」という概念を説明するためにまずは一般の\( \vee \)を扱うことにします。
定義1(一般化された超距離空間の定義) |
\( ( (P,\vee),\leq_P) \)に値を取る一般化された超距離空間とは、集合\( X \)と写像\( d \colon X^2 \to P, \ (x_i)_{i \in 2} \mapsto d(x_0,x_1) \)の組\( (X,d) \)であって以下を満たすものである: |
(1) 任意の\( (x_i)_{i \in 2} \in X^2 \)に対して、\( d(x_0,x_1) = 0_P \)と\( x_0 = x_1 \)が同値である。 |
(2) 任意の\( (x_i)_{i \in 2} \in X^2 \)に対して、\( d(x_0,x_1) = d(x_1,x_0) \)が成り立つ。 |
(3) 任意の\( (x_i)_{i \in 3} \in X^3 \)に対して、\( d(x_0,x_2) \leq_P d(x_0,x_1) \vee d(x_1,x_2) \)が成り立つ。 |
また\( (X,d) \)が\( ( (P,\vee),\leq_P) \)に値を取る一般化された超距離空間をなすということを、\( X \)は\( d \)に関して\( ( (P,\vee),\leq_P) \)に値を取る一般化された超距離空間をなすと表す。 |
ここでは扱いませんが、非負の実数全体の集合\( \mathbb{R}_{\geq 0} \)というものには加法\( +_{\mathbb{R}} \)と全順序\( \leq_{\mathbb{R}} \)が定義され、\( ( (\mathbb{R}_{\geq 0},+_{\mathbb{R}}),\leq_{\mathbb{R}}) \)は非負全順序可換モノイドをなします。
\( ( (\mathbb{R}_{\geq 0},+_{\mathbb{R}}),\leq_{\mathbb{R}}) \)に値を取る一般化された超距離空間は距離空間と呼ばれ、\( ( (\mathbb{R}_{\geq 0},\max_{\mathbb{R}_{\geq 0}}),\leq_{\mathbb{R}}) \)に値を取る一般化された超距離空間は超距離空間と呼ばれます。一般化された超距離空間はここでの説明の都合で導入したものなので余り使われませんが、距離空間や超距離空間は数学の様々な分野で使われるとても重要な概念です。
ここでも超距離空間を扱いたいのですが、実数という概念を補遺2まで定義しない都合上、代わりに超距離空間をほんの少し狭めた概念として、ここだけの用語で「\( \mathbb{Q}_{\geq 0} \)値超距離空間」というものを導入します。
定義2(\( \mathbb{Q}_{\geq 0} \)値超距離空間の定義) |
一般超距離空間とは集合\( X \)と非負全順序可換モノイド\( ( (P,\vee),\leq_P) \)と写像\( d \colon X^2 \to P \)の3つ組\( (X,( (P,\vee),\leq_P),d) \)であって、\( (X,d) \)は\( ( (P,\vee),\leq_P) \)に値を取る一般化された超距離空間であるものである。一般超距離空間\( (X,( (P,\vee),\leq_P),d) \)が\( \mathbb{Q}_{\geq 0} \)値超距離空間であるとは、ある狭義単調モノイド準同型\( ( (P,\vee),\leq_P) \hookrightarrow ( (\mathbb{Q}_{\geq 0},\max_{\mathbb{Q}_{\geq 0}}),\leq) \)が存在するということである。 |
ここでは扱いませんが自然な狭義単調モノイド準同型\( ( (\mathbb{Q}_{\geq 0},\max_{\mathbb{Q}_{\geq 0}}),\leq) \hookrightarrow ( (\mathbb{R}_{\geq 0},\max_{\mathbb{R}_{\geq 0}}),\leq_{\mathbb{R}}) \)が存在するので、それを通じて\( \mathbb{Q}_{\geq 0} \)値超距離空間は超距離空間とみなすことができます。
それでは\( \mathbb{Q}_{\geq 0} \)値超距離空間の例を見ていきましょう。
例3(\( \mathbb{Q}_{\geq 0} \)値超距離空間の例) |
付値体\( x = (k,O_k) \)に対し、\( (k,O_k) \)の値群\( \Gamma_x = k^{\times}/O_k^{\times} \)の通常の順序を\( \Gamma_x \sqcup \{ 0 \} \)に最小元の添加として延ばし、それに関する\( \max \)関数によって\( \Gamma_x \sqcup \{ 0 \} \)を非負全順序可換モノイドとみなす。\( k \)は写像\( d_x \colon k^2 \to \Gamma_x \sqcup \{ 0 \}, \ (c_i)_{i \in 2} \mapsto \lvert c_0 - c_1 \rvert_x \)に関して\( \Gamma_x \sqcup \{ 0 \} \)に値を取る一般化された超距離空間をなす。ただし、\( \lvert {-} \rvert_x \colon k \to \Gamma_x \)は付値写像である。もし\( (k,O_k) \)が離散付値体であるならば、\( \Gamma_x \sqcup \{ 0 \} \)は\( ( (\mathbb{Z} \sqcup \{ 0 \},\max_{\mathbb{Z} \sqcup \{ 0 \}}),\leq) \)へ狭義単調モノイド準同型を持ち、\( ( (\mathbb{Z} \sqcup \{ 0 \},\max_{\mathbb{Z} \sqcup \{ 0 \}}),\leq) \)は\( ( (\mathbb{Q}_{\geq 0},\max_{\mathbb{Q}_{\geq 0}}),\leq) \)へ狭義単調モノイド準同型を持つので、\( k \)は\( d_x \)に関して\( \mathbb{Q}_{\geq 0} \)値超距離空間をなす。 |
更に一般超距離空間に対して「開集合」という概念を定義し、一般超距離空間から「位相空間」という汎用性の高い概念を構成できることを確認していきます。
- 開集合
- 収束
- 閉集合
- コンパクト性
- 分離性
- 全不連結性
- 局所コンパクト性